湊かなえの新境地。心を抉られます

ほんのレビュー

湊かなえの新境地。教育などの題材を使った作品を描くことが多かった著者の今回のテーマは「介護」。

看護職をしている私からすると介護の現場についてこれほど赤裸々に書かれている部分がある本はあまりないと思う。もちろんHOW TO本ではいくらでも書籍がありますが、一つの物語として密接に関わってくる嫁姑問題、介護の実際、世の中の男性への課題など多くのことを考えさせられます。

CARE(介護)とCHAIN(絆という束縛)は同一戦場にあれど、同一のCODE(体系)ではないというメッセージが今回のタイトルに絡んできています。

実際に看護師として患者、家族と接していると介護は「家族としてついて回るもの」と敬遠されがちである。これまでの日本の一般常識として絆という束縛があることから家族が孤立してしまうことが多々あります。体調が悪くなって入院することは家族にとって介護から解放される一つの手段になることがあります。それが「社会的入院」です。世間の中では手を抜いているとか、病院にコネがあるのではないかと誤解されがちです。まさに『Personal is political』である。個人の問題は社会全体のことという意味である。最近では日曜劇場「御上先生」でも取り上げられるほど再び脚光を浴び始めることになるこの言葉。教育現場や女性の問題だけでなく、介護の世界でも同様のことが起こっています。「それまで生活を支えてくれた親だから」「長男としてやらなければ」などどいった家族の問題に見えて実は個人的な問題と捉えることができます。しかし『Personal is political』。社会として解決しなければならない問題であることも当事者になっている方には気づいてほしい。退院支援の関わりで必ず家族にいう言葉があります。それは「辛いことは他人を頼ることも必要です。人間には限界があります。社会的なサポートを受けることは何の恥もないんです」と。

今回の作品の中では一冊の日記が物語を進めていく上での様々な登場人物の心情風景を描写しながら書かれています。

先述した通り、日本には絆としての鎖でつながるという国民性が離れてくれません。政治がこの現状を認識できることができるのかはかなり不安が残りますが、皆さんの心の中に一つの光明として参考になるフレーズやキーワードが出てくることでしょう。

この作品はゆくゆく親の介護を担うことになる年代の人に是非とも読んでもらいたい。

本の良さを書くことはいくらでもできます。しかしこの作品は読む人によって感じ方は変わる内容となっているため、是非手に取って読み進めてもらいたいと本気でお勧めできる作品となっています。

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